読書感想

【感想】出動!イルカ・クジラ110番

「ストランディング」という言葉をご存知でしょうか?
たまにニュースで「〇〇海岸にクジラ〇頭が打ち上げられて…」といった話題が出てきますが、それです。

イルカやクジラなどの海で暮らす生き物が何らかの理由で岸に打ち上がることをストランディングと言い、日本語では「寄鯨」(よりくじら)とも言います。

本書では、北海道沿岸で発生したストランディングの情報収集と調査研究を行う団体「ストランディングネットワーク北海道」(SNH)の活動報告を中心に、研究の意義やイルカやクジラの生態が分かりやすく解説されています。

今回は本書「出動!イルカ・クジラ110番」を読んだ感想を素人目線で書いてみたいと思います。

なぜストランディングに興味を持ったのか?

私が“ストランディング”という言葉を知ったのは数年前でしょうか。
どこかの海岸でイルカだかクジラだかが大量に打ち上げられているというニュースを見て、たまたまその言葉を知りました。

SNHの活動を知ったのも偶然です。
ストランディングについてググっている間にたまたまサイトを見つけただけです。

私自身研究者ではありませんし、正直イルカやクジラに興味がそこまであるわけでもありません。
ましてやSNHのサイトに掲載されているような、イルカショーで見かける元気いっぱいの彼らとは程遠い、やや痛ましい姿を見て興奮するような趣味も持ち合わせていません。

では何故ストランディングに興味を持ったのかというと、本書の一番最初に書かれていました。

タイヘイヨウアカボウモドキ(英語名 Longman’s Beaked Whale、学名 Indopacetus pacificus)は、世界でも珍しい鯨類の一種である。オーストラリアで発見された2つの頭蓋骨標本にもとづいて、1926年にH.A.Longmanによって新種と報告され、その後いくつかの頭骨標本にもとづく遺伝的研究を交えて種名が確定したが、いずれも頭骨のみによる判定であったため、体色や体型などはわかっていなかった。全身が見つかったのは2002年7月26日に鹿児島で打ち上がった個体が初めてである。棲息域は、インド洋についてはアフリカに近い南西部からモルディブにかけて、太平洋ではオーストラリアから日本にかけての海域であり、一部、大西洋の熱帯海域にも棲息する。いずれも温暖な海域であり、北海道で発見されるとは誰も思っていなかった。新鮮な個体の全身が観察されたのは、これが世界で初めてであり、それまで想像を交えて描かれていた図鑑などの図も、この発見で大きく書き換えられることになった。

「出動!イルカ・クジラ110番」p.8 より

上記のように、海洋生物、特に大型の生物に関する新たな事実が判明する、新種が見つかる、そういった多くの謎がストランディングの調査によって明らかになるところが非常にワクワクします。

ただ、先の通り私は専門家でもないですし、実際に打ち上げられた姿を見たこともありません。
チキンでビビりなので、全長数メートルの大きなイルカやクジラが打ち上げられるのを見たならば怖くなって近寄れないかもしれません。

でも、興味がある。
「ストランディングの調査ってどうやって行われているんだろう?」「どんな発見があったんだろう?」、そんな好奇心から私は本書を手に取りました。

感想

本書を読んでまず思ったことは

“読みやすい!”

ということです。
高校生向けに仕立てられたものである為か、私のような素人にも非常に分かりやすく解説してあり、ページ数も120ページ程しかないのであっという間に読み切ることができてしまいます。しかもフルカラー!

間に「ツチクジラは美味しい」「鯨類の名前よもやま話」といったコラムも挟まれていて、超真面目な本というわけでもなく、読者に興味を持ってもらえるような工夫を感じられる良書だと私は思います。

導入部に、下記のような鯨類に関する基礎的な知識がまとめられているのもありがたいです。

  • 鯨類は86種もいること
  • イルカとクジラは大きさで分かれていて、生物学的な分類ではないこと
  • 国際条約で捕鯨禁止になっている鯨類は大型鯨類と呼ばれる十数種だけであること
  • 種によって増えている鯨種もあれば、減っている鯨種もあること

「出動!イルカ・クジラ110番」p.20 より

昨今の調査捕鯨に関するニュースを見ていると、鯨類全体の数が減少しているような印象を受けますが、決してそうではなく、種によって事情は大きく異なり、水産庁のサイトによると、“日本は、資源が豊富なクジラの種・系群を枯渇させることなく持続的に利用することを基本方針としており、シロナガスクジラのように個体数の少ない種類については積極的に保護に取り組んでいます”だそうです。

イルカとクジラの違いについても、生物学上の分類ではなく大きさで分かれている点で、ワシとタカの違いと同じであることを知りました。

また、上記以外でも、

イルカは英語でドルフィン dolphin またはポーパス porpoise と言われ、前者はハンドウイルカなど口先のとがったイルカを指す。ネズミイルカは口先がとがらず頭の丸いポーパスである。

「出動!イルカ・クジラ110番」p.35 より

というように、英語の違いも初めて知りました。
こんなん今度の飲み会で話のネタにできそうやん!

ちなみに、ハンドウイルカの名前について、

研究者はハンドウイルカ、水族館はバンドウイルカと言うことが多い。諸説あるが、もともとゴンドウの半分ぐらいの大きさということでハンドウという名前だったが、ある高名な先生が1950年代に哺乳類目録を出版した際にたまたま起こった誤植が見逃されてしまい、それが広がったという。

「出動!イルカ・クジラ110番」p.64 より

というコラムも載っていました。
これも飲み会で話できるやん!

現場の苦労話もまた面白い!
9メートルのザトウクジラが打ち上げられ、処分を病死した牛の処分場で行うことになった際、着地に失敗し解体に手間が掛かっていたところ、牛の解体に慣れた現場管理者の方が見事な手際で手伝ってくれた話や、解剖中にお参りに来てくれたアイヌ協会の方たちにならってアイヌ式のお祈りをした話など、実際にストランディング調査を行った方ならではの話が非常に面白かったです。

私は「へんなものみっけ!」(早良 朋先生)というマンガが好きなのですが、その中に打ち上げられ、砂浜に埋められたナガスクジラを掘り返す話があります。本書を読んだ後に改めてその話を読むと、「現場の先生方は本当に色々大変な思いをしながら研究されているのだなー」と、感慨深く読み返すことができました。


「へんなものみっけ!」コミック第2巻より

その他にも、北海道大学(筆者の松石 隆先生は北海道大学の先生)の鯨類研究会の話や学生さんの研究の話も載っています。北海道大学水産学部への入学を目指している方にとっても、大いに参考になる書籍ではないかと思います。

おわりに

去年の8月、鎌倉市の由比ガ浜海岸で国内で初めてシロナガスクジラのストランディングが観測されました(「2018年8月5日 鎌倉市由比ガ浜海岸にストランディングしたシロナガスクジラ 調査概要」参照)。

来月21日から上野の国立科学博物館で開催される特別展「大哺乳類展2」では、このストランディングした個体の頭骨やヒゲ板も展示されるそうです。

鯨類のみならず環境問題を考える観点からもストランディングの研究は非常に意義のあるものです。
このストランディング研究について、ここまで分かりやすく解説されている書籍は他にはありません(と思う)ので、イルカやクジラに興味がある方、私のように新しい発見にワクワクする方、是非本書を手に取ってみてください!

そして、ストランディングの研究は、まず情報収集・報告があってこそです。
北海道で鯨類が打ち上げられているのを見つけた際にはいるかくじら110番(090-1380-2336)への連絡を!”、ということで、今回の記事を終わりにしたいと思います。

関連記事

2020/12/11 追記:
国立科学博物館で開催された企画展「国立公園 -その自然には、物語がある-」で本書記載のクロツチクジラのホロタイプ標本が展示されたので見に行ってきました。

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